アルフレッド・W. クロスビー『数量化革命--ヨーロッパ覇権をもたらした世界観の誕生』小沢千重子訳、紀伊國屋書店、2003年、173–184ページ。
第2部 視覚化--革命の十分条件
第7章 視覚化するということ
これまでの章では、中世後期からルネサンス期にかけて数量的アプローチの急激な進展をもたらした必要条件を検討してきた。第3章で述べたように以下の第2部ではその十分条件を考察するが、それはすなわち視覚化である。以下の三つの章で人間の営為のそれぞれの領域での変化を考察するが、本章では読み書き能力における変化を見ていく。
読み書き能力はあきらかに視覚に結びついており、かつ重要性が普遍的に認められているので、変化の様子を示す良い例である。13世紀以前、権威ある言葉は主に耳によって受け取られていたが、13世紀には、鉄筆・羽ペン・インクを用いて情報を伝達・記録する習慣が急速に普及した。
古典古代から中世初期においては、書くことも読むことも骨の折れる作業だった。文字は一つずつ離して書かれていたし、単語・文章・段落の間には区切りがなく、句読点もないも同然だった。そしてその頃、読み書きは通常声を出すことを伴っていた。時間はかかるが、目で文字を追うよりも単語や文章の始めや終わりがわかりやすかったためである。
西ヨーロッパの知識人たちは、古代ローマの読み書きのルールを変更・改良した。文化の中心であるローマの人々はラテン語に通じていたため、単語を区切って書いたりする必要性を感じていなかっただろうが、地方の聖職者はラテン語に習熟しておらず、わかりやすいルールが必要だった。また西ヨーロッパの知識人たちは膨大な書類や書物を前に、より速く読み書きできる方法を求めていた。
彼らは14世紀までに新たな筆記体を編み出し、単語を区切って書くことや句読点を導入した。そのため従来より速く読み書きすることが可能になった。また13世紀までに黙読が一般化し、修道院や大聖堂付属学校、宮廷や商人の事務室に普及した。15世紀になると、大学では図書室が拡張され、静かな場所とされるようになった。つまり静寂と書物の内容理解が結びつけられたのである。こうして人々はより速く多く読めるようになり、おそらくより多くを学べるようになった。
人々は資格が支配する領域にさらに踏み込んでいったが、その先駆けは作曲家・画家・会計係だった。彼らは歌うこと・絵を描くこと・帳簿の数字を合わせることを実行しなければならなかったが、それらは現実を視覚的・数量的に表現することに他ならない。
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