Karel
Davids, 2015, “Introduction: Bridging Concepts,” Isis 106(4): 835–839.
今日、科学史・技術史・経済史の3つの分野は、知識の歴史・グローバルとローカルの関係・専門家と専門的知識の役割に対する関心を共有している。しかしそれぞれの分野間のやり取りはまだ少なく、互いに理解が不足している。本特集は、三分野の境界に位置する概念を扱った論考を通じて、それぞれの専門家を結びつけ、対話を促進することをねらいとしている。
本特集の4つの論考は、中世後期から19世紀の終わりにまたがる時期、中でも特に初期近代を取り上げている。その理由は、産業革命の技術的ブレイクスルー以前に実質的な経済成長が始まっていたと考えられること、また、経済的・技術的変化の文脈の関係について、1800年以前(特に初期近代)が論争の中心となっていることである。Longは、Galisonのトレーディング・ゾーンtrading zonesの概念を、作業場で学んだ職人たちと大学で学んだ人々が交流し、互いの専門的知識を共有した場所として捉える。Popplowは、初期近代の技術に関する知識の変化をより包括的に分析するために、「形式化formalization」と「相互作用interaction」という2つの概念を提案する。Robertsは、「生産production」という概念が原料を処理する行為に加えて文化的・感覚的・調整的側面を含み、またそれらは環境によって制限されたり環境の変化の要素になったりすると指摘する。Davidsは知識がグローバルに伝播する方法や理由を理解するために、McClellanとRegourdが導入した「コロニアル・マシーンcolonial machine」というメタファーと「自己組織化self-organization」という概念を用いることを提案する。
これらの概念は、知識の時間的・空間的な変化や移動を調べるための発見的道具として有用であると同時に、異なる分野間のコミュニケーションを強固にし、情報の拡散や新たな見方を助ける点で、科学史・技術史・経済史の架け橋として機能しうる。また、各論考で出されている例は主にヨーロッパ史からのものだが、提案されている概念はいずれもヨーロッパ以外の事例に対しても有用である。これらの概念は科学史・技術史・経済史の間の対話を刺激するだけでなく、それぞれの分野をよりグローバルにできる可能性をもっている。